みんなの暮らしと工夫

就労の悩み②

ほかの患者さんの経験を知ることで、自分の悩みを解決する糸口を見つけたり、ヒントを得ることができます。是非、ご参考ください。

前へ
次へ

『IBDとともに働き続けるコツ〜コミュニケーション編〜』パネルディスカッション

ファシリテーター 就労支援ネットワークONE代表 中金竜次さん

パネリスト

ランさん(30代・非常勤職員)潰瘍性大腸炎––病歴は約8年。発症当時は海外就労中で、治療のために帰国。長い活動期中に転職を経験。司書の資格を取得し、現在は医療関係の研究所にて情報支援職に就くかたわら、Gコミュニティで患者サポートスタッフとしても活動中。*Gコミュニティ:潰瘍性大腸炎・クローン病患者のためのコミュニティ ケンさん(50代・正社員)潰瘍性大腸炎––約10年前、突然「全大腸炎型」の潰瘍性大腸炎を発症。2カ月にも及ぶ入院・絶食を余儀なくされる。外回りも多い営業職で、これまでに8回ほど転勤を経験し、現在は単身赴任中。 しんちゃんさん(30代・正社員)クローン病––17歳の時に「小腸型」のクローン病を発症。2010年に一般企業に入社し、人事部に配属。数回の入院・休職を経験して現在は情報システム職。患者の会の会長としても、積極的に情報発信している。

※パネリスト名は、すべてハンドルネームです。

[テーマ1]就職や転職にあたり、病気について開示しましたか?

「開示した」

転職や異動のときには、最初からオープンにした。転職した時期は体調が不安定で、休まず働ける自信がなかったので、オープンにした方が安心できると思った。
症状や配慮いただきたいことなどを表にまとめて、同時に努力もしていると伝えるようにした。例えば、COVID-19など感染症のリスクをなるべく避けるためにラッシュの時間の通勤は避けたい、自分でも再燃しないよう体調管理に努めています、とアピールした。

「開示した」

いきなり発症して入院したので、周りに迷惑をかけた自覚もあり、病気のことはオープンにした。その後、転勤をした際にも話すようにした。職場には医療や薬の知識を持っている人もおられるが、IBDは理解されづらく「治る病気でしょ」というイメージがあるよう。だから転勤のたびに自己紹介のスライドをつくって、上司や同僚に説明している。

「開示した」

入社初日に倒れて、4カ月間入院した。前日から体調が悪かったが、リーマンショック後だったので、「初日から休んで内定を取り消されたら」と不安に思い、無理をしてしまった。障害者採用なので、採用担当者は病気を持っていることは知っていたけど、どんな病気かは把握されていなかったと思う。退院後、病気について書いた紙を社内で配った。

【病気の開示】
ディスカッションサマリー

・病気は開示して理解を得るようにした
・病気を理解してもらうためのシートを用意した

今回ご登場いただいた方は、みなさん「開示した」ということでした。病気の開示・非開示のどちらが良いというわけではなく、それぞれメリットもデメリットもあります。その人にとって「安心して働ける」という視点がポイントになるのではないかと思いました。

[テーマ2]病気の開示後、周囲の反応はどうでしたか?

「思いがけない反応もあった」

医療関係の本や情報を提供する司書として働いているが、「患者さんの視点を仕事に生かしてもらえると嬉しい」と言われた。また「自分も大腸の病気をしたことがある」と、その人の事情を話してもらえたことも。職場で良い関係を築いていく意味でも、病気のことを伝えていいのではないかと思う。

「休むことに否定的な世代も」

単身赴任先から離れた病院に通っているため、通院する日は有給を取っている。通院による有給取得をネガティブに受け止める方は非常に少ないとは言え、世代的に「休まないことの美学」を持っている方がいることも事実であるため、有給取得推奨の社会の変化に助けられている。

「病気について質問された」

「どんな病気ですか?」と聞かれることが多い。一緒に業務を連携する人には詳しく説明しているが、あまり仕事で関わらない人には一年に一回入院する、倦怠感があって休むことがあるなど簡単に伝えるようにしている。

【周囲の反応】
ディスカッションサマリー

・話すことでコミュニケーションが円滑になることもある
・周囲への配慮は欠かさないようにする

すべての企業にとって「合理的配慮」は義務になっていますが、患者サイドから病気について発信することは不安も大きいかと思います。でも、そんな中で良いリアクションがあると嬉しいですね。

[テーマ3]体調変動について、職場ではどのように伝えていますか?

「周囲に感謝しつつ体を優先」

あらかじめ職場には病気のことを伝えていて、調子が悪いなというときは、早退の相談をするようにしている。もちろん、上司や同僚に迷惑かけたら謝って、何かしていただいたらお礼を言う。働く時間の長さではなく、自分の得意なことや興味があることで職場に貢献するようにしている。実際に新しいサービスや企画を提案してきた。

「日頃から周知している」

今は寛解期だけれど、仕事が忙しい4月や9〜10月ごろには必ず体調が悪くなるというリズムができているので、そのことを周りに知っていただくようにしている。同時に、体調が良い時は健康な人と同じ仕事ができると、日頃から伝えている。

「どう伝えるか悩んでいる」

正直、早退するとはなかなか言いづらい。体調が悪いとき、仕事が忙しくなくても早退したくないという気持ちが強くて無理をしてしまう。「頑張れないんじゃない?」と思われたくないし。病気のせいじゃなく突発的に体調が悪くなることもあるので、体調の悪くないときはは限界まで努力して、「頑張りアピール」してしまうのが悩み。

【体調変動】
ディスカッションサマリー

・周囲とのコミュニケーションをとりつつ、体調を優先する
・つい限界まで頑張ってしまうことも

みなさん悩んだり、工夫されたりしていらっしゃるのですね。労働時間を基準にせず、得意なことで職場に貢献しようという考えは、働きやすさにつながると感じました。

[テーマ4]働きやすい環境のために、していること・心掛けていることは?

「視点を変える」

以前は、みんなのように働かなくちゃと頑張っては体調悪化して落ち込んでいた。でも、長い目で見ると、再燃せず長期欠勤しないことが職場にとって良いことだと思うようになった。自分がハッピーで働いていると、周りの人の事情や立場を考える余裕ができる。「自分も不完全だし、相手も不完全」という寛容な視点を持つことで、周囲にとっても働きやすい環境づくりができているかなと思う。

「コミュニケーションを積極的に」

病気の原因はストレスなので、ストレスをためないよう、発散することを心がけている。それでも体調が悪くなる時期がある。コロナ禍だとなかなか難しいが、なるべく人に会うようにして、冗談ぽくでも病気のことを話して、体調が悪い時のフォローをお願いしておく。そうすることが、働きやすい環境をつくるポイントかなと考えている。

「<許容>が働きやすさのキーワード」

職場では病気を理解してもらっている。IBDではない病気でも体調が悪くて休む人もいるし、出産・育児休暇を取る人もいて、長期休暇は当たり前という認識がある。だから、1年間休職した時も「いつものことだよね」という温度感で接してもらえている。そんな理解を示してくれる、許容してくれる職場が、働きやすい環境だと思う。

【働きやすい環境】
ディスカッションサマリー

・相手の事情や立場も考えてお互いに許容する
・普段からコミュニケーションを大切にする

正社員の方、非正規の方、エッセンシャルワーカーの方、コロナ禍ではリモートワークをしていらっしゃる方など、さまざまな立場や働き方があります。その中で、みなさんご自身なりの働きやすさを獲得するために、努力したりまた悩んだりされていることがよくわかりました。

ディスカッション総論

会社には安全配慮義務がありますが、さまざまな会社のお話を伺っていると、健康な男性を働き手の基準としている職場がまだまだあるように感じています。企業や業務とのマッチングに悩んでいて、どうしてもうまくいかない場合はリチョイスという方法もありますが、周囲の理解を得るために働きかけることで良い環境づくりを実現している人もいます。だから、職場での積極的なコミュニケーションは重要だなと、改めて思いました。

* 従業員が安全で健康に働けるよう配慮する義務のこと。
労働契約法第5条に明記されています。

[参加者からの質問①]「合理的配慮*」はどうすれば進むと思いますか?

障害者を雇用している会社でも、半分以上が「合理的配慮」を知らないというデータがある。治療しながら働く方は現在3人に1人、今後も増えていくと考えられるので、この事実を労働行政も私たちも周知し続けることが大事だと思う。

* 病気を持っている人も健康な人と同様に人権を享受・行使できるよう、事業主に対して義務付けられている配慮。定期的に受診できるよう計らう、病気によりできないことを課さないなどが挙げられます。

[参加者からの質②]子どもがクローン病になりました。みなさんは病気を受け入れるまで、どれくらい時間がかかりましたか?

大人になってから発症したが、嫌なことは多いし、今も病気を受け入れられているか疑問に感じるときも。でも、病気を通して集まりに参加できたり、人と出会えたりして、意識が変わってきたようにも思う。いいところに目を向けられるようになると、気持ちが楽になるかも知れない。

私はいきなり激症化したので、その時点で病気を受け入れるしかなかった。ただずっと体調が悪いわけではなく、落ち着いたら普段通りの生活ができる。体調の良い期間を長く保つことを目指して、日常生活なり治療なりを続けていくことが大事だと考えている。

17歳でクローン病になって非常に絶望した。でも、病気になっただけで終わりたくなくて、患者の会などで活動をしている。自分でも何かできる、人の役に立てるんだという経験を通して、だんだん病気を受け入れることができるようになった。体調が悪いとチャレンジができないので、まずは治療を最優先に。寛解を手に入れることが第一ステップだと思う。

潰瘍性大腸炎(UC)サイトTOPへ
ページトップへ