みなさん病気を抱えつつ社会で活躍されていますが、発症してからどのような経験を経て現在に至っているのか、少し詳しく教えていただけますか。
ほかの患者さんの経験を知ることで、自分の悩みを解決する糸口を見つけたり、ヒントを得ることができます。是非、ご参考ください。
※パネリスト名は、すべてハンドルネームです。
みなさん病気を抱えつつ社会で活躍されていますが、発症してからどのような経験を経て現在に至っているのか、少し詳しく教えていただけますか。
23歳の時にUC(潰瘍性大腸炎)と診断されました。以降は1年に3回くらい、1回につき2〜3カ月間入院していたので、販売員など短期間でできるアルバイトをしていました。
30歳で大腸を全摘出する手術を受けた後は状態が安定していたので、友人の誘いもありフリーランスのライターを始めました。大変なこともありましたがすごく楽しくて、長く続けていました。ところが、46歳くらいの時にまた調子が悪くなったんです。体力への不安と経済的な心配から財団法人に就職、現在は広報の仕事をしています。
高校に入学した4月くらいから体調が悪くなり、入退院を繰り返しました。難病ということでショックを受けた両親に「この子は働けないだろう」と言われたり、勝手に卒業後の就職先を探されたりしたことで、「自立しないと」と考えて看護師になりました。でも仕事をしてみると、夜勤もありハードワークで…。
結婚して引っ越しをしたのを機に、体調を回復させたいのと妊活目的で大学の事務のパートに就いて、今は仕事量を少しセーブしている状況です。
クローン病と診断されたのは高校2年の時です。新卒で就職する前に障害者手帳を持っていたので、障害者雇用枠で正社員として就職しました。しばらく体調もよかったので、いろんなことにチャレンジしたくて退職、インドでヨガの勉強をして帰国後はアルバイトなどをしながらヨガを教えたりしていました。
その後、正社員として就職する機会もありましたが、体調の問題もあって、今はバイオベンチャー企業の契約社員です。週3日勤務で、1日は出社、2日はテレワークをしています。
「どのような病気なのかも開示した」
病気への理解を得たくて看護師になったというのもあり、応募の段階から伝えました。他の職種に就く時も、一般雇用だったので病名だけでは伝わらないと思い、病気の詳細と通院が定期的に必要なことも開示していました。「この業務内容なら十分働けると思います」とポジティブな言葉も必ず添えてアピールするようにしていました。
「周囲に開示するかどうか、配慮いただいた」
フリーライターの時は近しい人にだけ伝えていました。今の職場は、配慮いただきたいという前提で障害者雇用での転職だったので、面接の時点から病気のことをお伝えしました。面接官の方から「病気のことを周囲の人に広めたくないなら伝えませんよ」と配慮いただきましたが、突然何かがあってみなさんを驚かせてはいけないので、開示していただきました。
「踏み込んだ内容まで伝えた」
私も障害者雇用の枠で就職したので、最初から病気を開示しました。その前に一般で派遣やアルバイトをしていたこともあって、体調を崩した時に病気のことを開示しましたが、きちんと配慮していただき助かりました。
でも、やはり手帳を持っていた方が雇用側にも事情が伝わると思いますし、こちらも話しやすいと思います。内容も踏み込んだところまで話しましたが、受け入れていただけました。
【病気の開示】
ディスカッションサマリー
・面接時に伝える
・上司だけでなくともに働く人たちにも伝える
「周囲からの評価が気になる」
開示することで、働く環境が整いやすいというメリットはあります。ただ、看護師時代に「できない人」と思われているのではないかという不安は常にありました。実際にチャレンジの機会をいただいた時に、体調が悪く「今はできません」と伝えたところ、失望されたことがありました。体調が悪いことが、きちんと伝わってなかったからだと思います。相手にもよりますが、伝え方にも工夫が必要ですね。
「必要以上に気を遣われてしまう」
体調に不安を感じた時に社内の人に相談したところ、業務内容を見直していただけたので、開示するメリットはあると思います。IBDって元気そうに見えるし、どこが悪いのかわからないですよね。私ができることに対してまで、みなさんが気遣って「大丈夫?」「代わりにやるよ」と言ってくれることがあります。そんな意識の相違というか、お互いに変な気を遣い合ってしまうところはデメリットかなとは思います。
「成長するチャンスを逃しがちに」
私は就労を通して成長したいと思っていますが、周囲が先回りして配慮してくださって…。結果チャレンジする機会がもらえなかったり、「病気だから仕方ないよね」という理由で評価されてしまったり、というのはありました。障害者雇用なので就労時間が限られてはいますが、できる範囲でチャレンジしたいので、上司としっかり話をして機会がもらえたらいいなと考えています。
【開示のメリット・デメリット】
ディスカッションサマリー
・配慮してもらいやすくなる
・過剰に配慮されることもある
職場の方たちにとって、病気や体調を正しく把握することは難しいようです。大変ですが、まずは上司などに「これはできるけど、この点については…」とコミュニケーションを重ねていくことが大切かもしれません。
「失敗を成功のステップに」
私は体調を崩しては仕事を辞めて、ということを繰り返してきたのでキャリアが断続的です。でも、その時その時にできることを一生懸命やってきたので、「あの経験が今役に立っている」と思うことがたくさんあります。
失敗しても次の成功へのステップになっているはずなので、失敗のままで終わらせないように次の手を考えて進んでいくのがよいかなと思っています。
「落ち込む気持ちを客観視する」
本当は同じ職場でバリバリ働き続けたかったけれど、何度も休んだり辞めたりしてきたので、自分を責めてしまっていました。気持ちを書き出して客観的になるようにしたり、職場で言われた嬉しい言葉を思い出したりして、気持ちを上向きにしています。
あとはスキルアップのために色々な勉強をして、自分に足りない部分を補っていけたらいいなと思っています。
「チームワークでリスクを分散」
フリーランスの頃はがむしゃらに頑張っていましたが、今は無理をしないことが大前提です。会社ではチームやペアで仕事をしているので、体調が悪くなりそうなら早めに伝えるようにしています。自分が無理をして倒れたら、さらに大きな負荷をかけてしまうので。
もちろん、体調のよい時や相手の事情から私が業務を多く引き受けることもあり、お互いにフォローする感じでリスク分散をしています。
【仕事への心構え】
ディスカッションサマリー
・気持ちを前に向かせる
・みんなと助け合い無理をしない
病気があると、無理はできないけれども、仕事はきちんと進めたいというジレンマやお悩みを、多くの方が抱えていらっしゃると思います。パネリストのみなさんのお話を聞いて、さまざまな解決策があると気付かされました。
「体力的に無理のない仕事を」
病気を理解していただけたらと思って看護師になりましたが、私が就職した職場ではバリバリ働ける人が求められているように感じました。私の場合は、座ってできるデスクワークや、資格やスキルを身につけてできる仕事が続けやすいかなと感じています。
「楽しいことを、体調に合わせて」
自分が楽しめるかどうかというのが、一番のキーワードです。フルタイムで働くことだけが就業ではないので、体調に合わせて興味あることを、短期間でもやってみるといいと思っています。私が職場を選ぶ時には、福利厚生をしっかり確認しました。長期入院した場合の制度なども。あとは面接時の雰囲気も重視しましたね。
「企業理念に共感できるところを」
昔は体力も気力もあるし、病状もコントロールできていたので、どんな条件でも仕事ができると思っていましたが、だんだん仕事をすることで命を削っているような感じがしてきました。今は、興味があることはもちろんなのですが、共感できる企業理念で、自分のスキルや適性が合ったところで成長したいと考えています。
【職場の選び方】
ディスカッションサマリー
・体力に合った仕事、病気に理解のある職場を選ぶ
・楽しいことや興味があることを重視する
福利厚生が整っていたり、また理解ある経営者の方と直接話せたりと、人によって働きやすい環境というのはさまざまです。パネリストのみなさんの視点も参考に、ご自分なりのチェックポイントを書き出してみるのもよいかもしれません。
私は、手術をして永久ストーマや短腸症候群になる、また在宅で点滴をすることになるなど、生活に大きな制限がかかるタイミングで手帳の取得を検討しても良いと思います。医師や看護師さんに、同じ症状で取得している人がいるかを尋ねてみるのも良いかもしれません。手帳を持っていると、障害者枠で企業の求人に応募できる機会やさまざまなサポートもあるので、私はメリットしか感じていません。ただ、自分が障害者という枠組みに入ってしまうことを快く思わない人には、ストレスになるんじゃないかとは思います。
手帳があると障害者枠で就業できるし、自治体のサポートも受けられるので、私もメリットが大きいと感じています。
私は大きな手術をしたので、自動的に手帳を取得することになりました。いろんなランクの手帳があるので、主治医の先生に相談してみるとよいと思います。
病気を抱えつつ、これから受験や就活を迎えるという若い方たちに、お一人ずつメッセージやアドバイスをいただけますでしょうか。
若いうちは難病ということに対しすごく悩むでしょうし、孤独を感じることが多いと思います。私は歳を重ねるにつれて「病気にならない人なんていない」という気持ちになっていて、年代が上の人と「今日は体痛いよね」とわかり合えたりしています。今は周囲と比べて弱みがあったり、生活するうえで工夫が必要だったりしますが、馴染んでいくまでの辛抱だから大丈夫だよ、みたいなことは伝えたいです。
20代で発病した頃、周りの友達は旅行したり美味しいものを食べに行ったり、結婚したり…。私は我慢することばかりで、お先真っ暗だと思ったことは何度もあります。経験上、そんな時は無理に頑張らなくてもいいと思うんです。気づいたらフワッと上がってくることがあるので。
この病気は波があって、人によって症状も違います。本当に辛い時に分かち合える人がいるのは救いになるので、コミュニティを広げていけるといいですね。また、多様な生き方が当たり前になってきている今、IBDであることをネガティブに捉えなくていいかなと思っています。IBDは多様な生き方の先駆的存在として、私は堂々としていたいです。
「高校や大学を出たらいい会社に入って終身雇用される」。そんな王道の一本道があって、そこから外れたら人じゃないくらいに思っている人もいるかもしれません。でも、外れてみると結構楽だったり、楽しい経験もできたりします。もし自分が思い描いていた道から外れたとしてもそこで楽しんだらいいし、もし失敗しても誰かの力を借りてでも立ち上がることができれば自信がつきます。致命傷にならない失敗を繰り返して回復力を高めて、いろんなことを楽しんでいってもらえたらいいなと思っています。
どんな道にも先輩はいるので、みなさんは一人じゃないです。相談できる人を見つけることができればいいですね。
職場の人に病気のことを伝える・伝えないについては、多くの方が悩んでいらっしゃいます。パネリストのみなさんは、最初から開示することで適切な配慮をいただいているようですね。